不動産を購入して他人に貸し、賃料を得る不動産投資。近年は老後の年金対策や不動産投資ローンに付随する保険の効果などから、株式投資や投資信託などと並ぶ資産形成手段の1つとして注目されています。
そんな不動産投資の成功のために最も重要なことは「賃料を安定して確保できるか」です。賃料を利回りで割り算する「収益還元法」で不動産価格を求めることが一般的であり、賃料が下がると資産価値の毀損に直結するためです。
今回は区分マンションにフォーカスし、「マンション賃料インデックス」を紐解きます。全国の主要都市だけでなく、区分マンション投資の主戦場である東京23区の各エリアを比較しました。
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1.マンション賃料インデックスについて
マンション賃料インデックスとは、アットホーム株式会社および三井住友トラスト基礎研究所(以下、SMTRI)が共同開発した賃貸マンションの成約事例に基づく賃料指標です。統計的手法を駆使して不動産の個別性の影響を軽減しつつ、アットホームが蓄積しているマンション成約事例を指数化したものです。2009年の第1四半期(1〜3月)を100とした指数で表されており、マンション賃料の動向を時系列でチェックするのに向いています。指数は各エリアごとにシングルタイプ・コンパクトタイプ・ファミリータイプ、そしてこれらをまとめた総合指数があります。
本レポートでは2023年3月22日に公表された2022年第4四半期版を用いてお伝えします。
※各指標やエリアの定義などの詳細については本レポート最下部に記載しています。
2.全国主要都市の賃料動向
総合指数:賃料上昇率全国トップは大阪市!
全国12エリア中、総合指数の全国トップは大阪市となりました。大阪市は指数が126ポイントと、2009年対比で26%も賃料が上昇したことになります。シングル・コンパクト・ファミリーとすべてのタイプで上昇が続いており、賃貸需要の増加傾向が伺えます。SMTRIは観光客の増加等が雇用回復と人口流入につながったと分析しています。
大阪市に次ぐ2位は札幌市、3位仙台市、4位京都市、5位福岡市でした。いずれも15%〜20%の賃料上昇となっており、各地の大都市が健闘しています。その他、東京23区は14%の上昇となった一方で東京都下は6%の上昇に留まり、上昇率は12エリア中11位でした。東京は区分マンション投資において最も中心的なエリアですが、過去の賃料推移からは23区内がベターであると言えそうです。
総じて見ると、アベノミクスや大規模金融緩和が始まった2013年頃から長期上昇トレンドとなり、コロナ禍を経ても特段目立った低下はなく推移していると言えるでしょう。
なお、最下位は名古屋市で、インデックスの中で唯一マイナスとなっています。
<全国・総合指数> ()内は上昇率
1位:大阪市(26.7%)
2位:札幌市(19.5%)
3位:仙台市(19.5%)
4位:京都市(15.4%)
5位:福岡市(15.3%)
6位:東京23区(14.1%)
7位:大阪広域(12.5%)
8位:埼玉東南部(11.0%)
9位:千葉西部(10.4%)
10位:横浜・川崎市(10.3%)
11位:東京都下(6.0%)
12位:名古屋市(▲1%)
タイプ別:地域ごとの特徴
さらに全国主要都市のデータから、直近値だけを物件タイプ別にグラフ化したものが以下です。
専有面積によって分かれており、区分マンション投資において最もポピュラーと言える18㎡以上30㎡未満の物件が「シングル」タイプです。また、「コンパクト」タイプは30㎡以上60㎡未満、「ファミリー」タイプは60㎡以上100㎡未満となっています。
タイプ別に見ると、総合指数とは違った景色が広がっています。
まず、総じて「ファミリー>コンパクト>シングル」の順で賃料上昇率が高いことが明らかです。例えば総合指数全国2位の札幌市はファミリーの賃料上昇が著しく、シングルやコンパクトは特段際立ってはいません。同様に全国1位の大阪市や3位の仙台市も、ファミリーの上昇率が高くなっています。このようなファミリータイプ物件の賃料上昇理由については本レポート「まとめ」で考察します。
異質なのは全国で唯一総合指数がマイナス値だった名古屋市です。名古屋市の場合、シングルでは9%上昇しているものの、むしろコンパクトやファミリーがマイナス値となっており、地域によってはこうした面積の広いマンションに対する賃貸需要が弱い現状が見てとれます。
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3.東京23区・エリア別の賃料動向
次に、区分マンション投資の主戦場である東京23区を取り上げます。
総合指数
総合指数では「日本橋・人形町」が上昇率トップで、上昇率は約20%となりました。次いで2位は「三田・芝公園」、3位「銀座・新富町」、4位「神保町・秋葉原」、5位「四谷・麹町」と、中央区や港区・新宿区といった都心のエリアが上位にランクインしています。
<東京23区・総合指数> ()内は上昇率
1位:日本橋・人形町(19.7%)
2位:三田・芝公園(17.3%)
3位:銀座・新富町(15.6%)
4位:神保町・秋葉原(14.8%)
5位:四谷・麹町(14.4%)
6位:月島・勝どき(13.0%)
7位:門前仲町・葛西(12.2%)
8位:池袋(12.0%)
9位:白金・高輪(11.9%)
10位:渋谷・恵比寿(9.9%)
11位:飯田橋・神楽坂(9.3%)
12位:春日・白山(8.9%)
13位:新宿(8.4%)
14位:曙橋・若松河田(8.1%)
15位:東中野 - 西荻窪(7.9%)
16位:広尾・麻布(7.7%)
17位:赤坂・六本木(7.0%)
18位:中目黒・自由が丘(6.6%)
19位:池尻大橋 - 二子玉川(6.5%)
20位:代々木(2.1%)
シングルタイプ
総合指数に続き、シングルタイプでも「日本橋・人形町」が上昇率トップとなりました。2位も「銀座・新富町」であり、中央区の賃料上昇が著しいことが伺えます。次いで3位は「飯田橋・神楽坂」、4位「赤坂・六本木」、5位「池袋」でした。
最下位は唯一マイナス値の「広尾・麻布」であり、コロナ禍以降急速に賃料相場が低下しています。都心かつ伝統的な高級住宅地であるため、土地の仕入れが難しいことでシングルタイプ新築物件(≒現在のニーズに合う物件)の供給が少なく、築年数経過や賃貸ニーズの変化によって賃料水準が下がっている可能性があります。
<東京23区・シングルタイプ> ()内は上昇率
1位:日本橋・人形町(14.8%)
2位:銀座・新富町(11.8%)
3位:飯田橋・神楽坂(11.2%)
4位:赤坂・六本木(9.7%)
5位:池袋(8.9%)
6位:門前仲町・葛西(8.4%)
7位:四谷・麹町(8.3%)
8位:曙橋・若松河田(7.3%)
9位:神保町・秋葉原(7.2%)
10位:東中野 - 西荻窪(6.5%)
11位:中目黒・自由が丘(5.7%)
12位:三田・芝公園(5.3%)
13位:渋谷・恵比寿(5.2%)
14位:白金・高輪(5.1%)
15位:池尻大橋 - 二子玉川(3.9%)
16位:代々木(3.3%)
17位:月島・勝どき(2.7%)
18位:新宿(1.8%)
19位:春日・白山(1.0%)
20位:広尾・麻布(▲1.3%)
コンパクトタイプ
コンパクトタイプは30㎡〜60㎡が対象で、投資目的だけでなく住宅ローンを利用できる実需目的での購入も視野に入る面積帯の物件が集計されています。そんなコンパクトタイプの1位は「月島・勝どき」となりました。2位は「三田・芝公園」と、近年人気の湾岸エリアや港区の需要の高さが伺えます。その後、3位「神保町・秋葉原」、4位「新宿」、5位「渋谷・恵比寿」と続いています。
<東京23区・コンパクトタイプ> ()内は上昇率
1位:月島・勝どき(22.8%)
2位:三田・芝公園(22.7%)
3位:神保町・秋葉原(21.5%)
4位:新宿(18.6%)
5位:渋谷・恵比寿(16.5%)
6位:日本橋・人形町(16.3%)
7位:池袋(15.6%)
8位:春日・白山(15.3%)
9位:銀座・新富町(15.0%)
10位:門前仲町・葛西(14.0%)
11位:四谷・麹町(13.2%)
12位:白金・高輪(13.1%)
13位:赤坂・六本木(10.1%)
14位:東中野 - 西荻窪(9.6%)
15位:中目黒・自由が丘(9.0%)
16位:曙橋・若松河田(8.0%)
17位:広尾・麻布(7.6%)
18位:池尻大橋・二子玉川(7.0%)
19位:代々木(7.0%)
20位:飯田橋・神楽坂(3.8%)
ファミリータイプ
ファミリータイプでは1位「三田・芝公園」、2位「広尾・麻布」、3位「新宿」、4位「月島・勝どき」、5位「白金・高輪」でした。上位5つには港区の3エリアがランクインしたほか、湾岸エリアの強さが際立つ結果となっています。目を見張るのは賃料上昇率の高さで、1位から4位はいずれも40%以上の上昇となっています。
<東京23区・ファミリータイプ> ()内は上昇率
1位:三田・芝公園 (47.8%)
2位:広尾・麻布(46.8%)
3位:新宿(45.4%)
4位:月島・勝どき(40.8%)
5位:白金・高輪(36.3%)
6位:飯田橋・神楽坂(25.5%)
7位:門前仲町・葛西(19.7%)
8位:池尻大橋 - 二子玉川:(19.1%)
9位:代々木(17.5%)
10位:東中野 - 西荻窪(14.9%)
11位:春日・白山(13.3%)
12位:赤坂・六本木(11.6%)
13位:曙橋・若松河田(9.4%)
14位:中目黒・自由が丘(5.4%)
※直近のデータがない四谷・麹町、日本橋・人形町、渋谷・恵比寿、銀座・新富町、神保町・秋葉原、池袋の6エリアは割愛
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4.まとめ
いかがでしたか。
全国的に賃料相場が上昇する中でも、総じて「ファミリー>コンパクト>シングル」の順で賃料上昇率が高くなっていました。
これはコロナ禍を経て居住環境にフォーカスする層が増加した結果、「もう一部屋」「もう一まわり」の広さを求める傾向が強くなり、面積の広い物件の賃料(および物件価格)を押し上げている、というシンプルな仮説に合理性がありそうです。
一方、そういった背景が相対的に弱いシングル・コンパクトマンションについては、ファミリータイプほど賃料の伸びが生じていないことが推察されます。
そして、補足事項としては以下の事項も想定されます。
===ファミリータイプ物件の賃料上昇プロセス===
(1)「買ったほうが得か」「借りたほうが得か」という比較の観点から、ファミリータイプマンションではインフレや金融緩和、税制面(住宅ローン減税)の恩恵を受けた需要増加で物件価格が上昇
(2)土地・建築費などのコストが増加しながらも、コロナ禍など時代のニーズに合致した新築ファミリータイプの販売が好調となった。新築の売り出し価格が高いことで、スペックの近い中古物件も新築にキャッチアップし価格上昇
(3)当該エリアの魅力が高まったことで賃貸需要も増加し、物件価格とともに賃料相場も上昇
参考:もともと需要が強かった東京都の物件価格が更に上昇したため、近隣の首都圏近郊物件の価格も上昇
>>日経新聞「住宅難民」東京から隣県へ 30・40代、転出超過2万人
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さらに、東京23区で深堀りするとエリアによって様相が異なっていました。
例えば晴海フラッグが注目を集める湾岸エリア(月島・勝どき)では、コンパクト・ファミリータイプに比べるとシングルタイプの賃料上昇は劣後し、シングルタイプで2トップの「日本橋・人形町」「銀座・新富町」はコンパクトタイプでは順位を落としました。
これらを踏まえると、時代のニーズや物件タイプ、エリアを総合的に考慮した投資判断が重要であるといえるでしょう。
区分マンション投資のエリア・物件選定に、ぜひ本レポートをお役立てください。
<チェックポイント>
・面積の広い物件ほど賃料上昇率が高い
・東京23区では中央区や港区の賃貸需要が増大
・エリアごとの賃貸ニーズや特性の見極めが重要
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マンション賃料インデックス各指標の定義等について
<インデックス算出条件>
・建物構造:RC(鉄筋コンクリート造)、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート造)
・駅から徒歩15分以内
・住戸面積:18㎡以上100㎡未満
<物件タイプ>
・シングルタイプ:18㎡以上30㎡未満
・コンパクトタイプ:30㎡以上60㎡未満
・ファミリータイプ:60㎡以上100㎡未満
・総合:18㎡以上100㎡未満
<エリアと駅名>
四谷・麹町:麹町・半蔵門・市ヶ谷・四谷
日本橋・人形町:小伝馬町・茅場町・人形町・日本橋・馬喰横山・浜町・新日本橋・馬喰町・三越 前・水天宮前
月島・勝どき:月島・勝どき
赤坂・六本木:神谷町・六本木・赤坂・乃木坂・六本木一丁目
広尾・麻布:広尾・麻布十番
三田・芝公園:大門・三田・御成門・芝公園・浜松町・田町・赤羽橋
白金・高輪:泉岳寺・高輪台・白金台・白金高輪
新宿:新宿・新宿御苑前・西新宿・新宿三丁目・西武新宿・東新宿・代々木
曙橋・若松河田:四谷三丁目・曙橋・若松河田・牛込柳町
飯田橋神楽坂:江戸川橋・神楽坂・飯田橋・牛込神楽坂
青山・原宿:原宿・明治神宮前・青山一丁目・外苑前・表参道
渋谷・恵比寿:恵比寿・渋谷・神泉・代官山
代々木:代々木公園・代々木上原・初台・幡ヶ谷・参宮橋・代々木八幡
春日・白山:後楽園・千石・白山・春日
中目黒-自由が丘:中目黒・祐天寺・学芸大学・都立大学・自由が丘
池尻大橋-二子玉川:池尻大橋・三軒茶屋・駒沢大学・桜新町・用賀・二子玉川
東中野-西荻窪:東中野・中野・高円寺・阿佐ヶ谷・荻窪・西荻窪
銀座・新富町:銀座・京橋・八丁堀・築地・東銀座・銀座一丁目・新富町・宝町・築地市場
神保町・秋葉原:神田・秋葉原・淡路町・新御茶ノ水・岩本町・小川町・神保町・九段下
門前仲町-葛西:門前仲町・木場・東陽町・南砂町・西葛西・葛西
池袋:池袋・東池袋・大塚
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