不動産を購入して他人に貸し、賃料を得る不動産投資。近年は老後の年金対策や不動産投資ローンに付随する保険「団信」の効果などから、株式投資や投資信託などと並ぶ資産形成手段の1つとして注目されています。
そんな不動産投資の成功のために最も重要なことは「賃料を安定して確保できるか」です。賃料を利回りで割り算する「収益還元法」で不動産価格を求めることが一般的であり、賃料が下がると資産価値の毀損に直結するためです。
そこで、今年5月のレポートに続く第2弾として、区分マンションにフォーカスした賃料指標、「マンション賃料インデックス」の最新版を解説します。全国主要都市だけでなく、区分マンション投資の主戦場である東京23区の各エリアを比較しました。
>>前回レポート:
区分マンション賃料・エリアレポート 賃料増加の全国トップはあの都市!23区の動向も(2023.3時点)
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1.マンション賃料インデックスについて
マンション賃料インデックスとは、アットホーム株式会社・三井住友トラスト基礎研究所(以下、SMTRI)が共同開発した賃貸マンションの成約事例に基づく賃料指標です。統計的手法を駆使して不動産の個別性の影響を軽減しつつ、アットホームが蓄積しているマンション成約事例を指数化したものです。2009年の第1四半期(1〜3月)を100とした指数で表されており、マンション賃料の動向を時系列でチェックするのに向いています。指数は各エリアごとに
・シングルタイプ(18㎡以上30㎡未満)
・コンパクトタイプ(30㎡以上60㎡未満)
・ファミリータイプ(60㎡以上100㎡未満)
の3つと、これらをまとめた総合指数があります。本レポートでは2023年6月21日に公表された2023年第1四半期版を用いてお伝えします。
※各指標やエリアの定義などの詳細については本レポート最下部に記載しています。
2.全国主要都市
総合指数:大阪市が18四半期連続の首位堅持
今回も全国12エリア中、総合指数の全国トップは大阪市でした。これで2018年4Q以来、18四半期連続の首位キープとなります。大阪市は指数が125.2ポイントと、前回レポート時よりやや低下したものの、2009年対比で25.2%という高水準の賃料上昇率を保っています。内訳としてもシングル・コンパクト・ファミリーとすべてのタイプで上昇が続いており、賃貸需要が旺盛です。
SMTRIは「大阪での郊外移住の動きが減少したが、外国人観光客の増加や大阪万博に向けたビジネス出張の増加によって宿泊・サービス業の法人需要は回復した」と分析しています。
以下は2位仙台市、3位札幌市、4位京都市、5位福岡市でした。いずれも15%〜20%程度の賃料上昇であり、引き続き地方大都市が健闘しています。その他、東京23区は15.6%となった一方で東京都下は8.2%に留まりました。東京都は区分マンション投資において最も中心的なエリアですが、過去の賃料推移からは23区内がベターであると言えそうです。
総じて見ると、大規模金融緩和が始まった2013年頃から長期上昇トレンドが続いており、コロナ禍を経ても特段目立った低下はなく推移していると言えるでしょう。
なお、今回も最下位は名古屋市で、プラス圏に浮上したものの上昇率は1%未満に留まりました。
タイプ別
さらに全国主要都市のデータから、直近値だけを物件タイプ別にグラフ化したものが下図です。
物件タイプ別では総合指数とは様相が異なっており、「ファミリー>コンパクト>シングル」の順で賃料上昇率が高い傾向は変わっていません。例えば総合指数で全国1〜3位の大阪市・仙台市・札幌市はファミリーの賃料上昇が著しく、シングルやコンパクトは特段際立ってはいません。前回レポートで考察したように、コロナ禍を経て「もう一部屋」「もうひとまわり」大きな居住環境を求める層が増加したことや、税制面・金融緩和の影響から、不動産価格の高騰は面積の広い物件が牽引役となってきたことが理由であると考えられます。SMTRIも「競合する分譲マンションの発売価格高騰のほか、テレワークを契機とした住戸面積に広さを求める需要は継続している」と分析しています。
総合指数の低調さが際立っていた名古屋市はファミリータイプ賃料が前回レポートからさらに大きく低下し、-15.5%となりました(前回は-4.9%)。
当社INVASE事業責任者・渕ノ上は、「名古屋市は環状線があることで、名古屋駅に15分程度で出やすい『好立地と謳われやすい』エリアが広く、街がコンパクトにまとまっていない。過去のファミリータイプ物件の供給過剰が賃料の下落要因になっている」と指摘。また、「名古屋市と対称的なのが福岡市で、比較的コンパクトな都市設計になっているので賃料は安定しやすい」と分析しています。
3.東京23区・エリア別
次に、区分マンション投資の主戦場である東京23区を取り上げます。
総合指数
総合指数では引き続き「日本橋・人形町」が上昇率トップで、上昇率26.4%となりました。次いで2位は「三田・芝公園」、3位「銀座・新富町」、4位「四谷・麹町」と、前回と同じ顔ぶれとなりました。引き続き中央区や港区・新宿区といった都心エリアの賃貸需要の強さが窺えます。5位には城東エリアの「門前仲町・葛西」(前回7位)が入りました。
<東京23区・総合指数> ()内は上昇率
1位:日本橋・人形町(26.4%)
2位:三田・芝公園(19.5%)
3位:銀座・新富町(18.6%)
4位:四谷・麹町(16.4%)
5位:門前仲町・葛西(14.3%)
6位:月島・勝どき(13.9%)
7位:神保町・秋葉原(13.9%)
8位:池袋(13.7%)
9位:青山・原宿 (12.0%)
10位:白金・高輪(11.9%)
11位:渋谷・恵比寿(11.8%)
12位:東中野・西荻窪(10.9%)
13位:春日・白山(10.7%)
14位:広尾・麻布(10.1%)
15位:新宿(9.6%)
16位:飯田橋・神楽坂(9.4%)
17位:曙橋・若松河田(8.6%)
18位:池尻大橋・二子玉川(8.2%)
19位:中目黒・自由が丘(7.4%)
20位:赤坂・六本木(6.0%)
21位:代々木(4.5%)
シングルタイプ
総合指数に続いてシングルタイプでも「日本橋・人形町」が上昇率トップとなりました。2〜3位は「白金・高輪」(前期14位)、「四谷・麹町」(前期7位)がジャンプアップしました。
最下位は唯一マイナス値の「青山・原宿」でした。同エリアは2009年以降総じて賃料が伸び悩んでいる状況にあります。都心の伝統的な高級住宅地では用地仕入れの難しさなどの理由から、シングルタイプ新築物件の供給が少ない傾向にあります。そのため、建物老朽化や賃貸ニーズの変化が、賃料下落要因として作用している可能性があります。
<東京23区・シングルタイプ> ()内は上昇率
1位:日本橋・人形町(16.3%)
2位:白金・高輪(13.05%)
3位:四谷・麹町(12.18%)
4位:銀座・新富町(11.73%)
5位:赤坂・六本木(10.82%)
6位:飯田橋・神楽坂(9.73%)
7位:曙橋・若松河田(9.44%)
8位:渋谷・恵比寿(9.33%)
9位:東中野・西荻窪(9.18%)
10位:三田・芝公園(8.92%)
11位:池袋(8.84%)
12位:門前仲町・葛西(7.80%)
13位:月島・勝どき(7.51%)
14位:中目黒・自由が丘(5.95%)
15位:池尻大橋・二子玉川(5.20%)
16位:代々木(4.99%)
17位:神保町・秋葉原(4.57%)
18位:新宿(2.45%)
19位:春日・白山(1.77%)
20位:広尾・麻布(0.57%)
21位:青山・原宿(▲7.26%)
コンパクトタイプ
コンパクトタイプは30㎡〜60㎡が対象なため、投資目的だけでなく住宅ローンを利用できる実需目的での売買も視野に入る面積帯となります。そんなコンパクトタイプも1位は「日本橋・人形町」となりました。2位「三田・芝公園」、3位「神保町・秋葉原」と、こちらも中央区・港区・千代田区といった都心部の需要の高さが伺えます。なお、前回1位の「月島・勝どき」は11位にランクダウンしました。
<東京23区・コンパクトタイプ> ()内は上昇率
1位:日本橋・人形町(25.5%)
2位:三田・芝公園(23.5%)
3位:神保町・秋葉原(22.5%)
4位:池袋(19.4%)
5位:銀座・新富町(16.5%)
6位:新宿(16.3%)
7位:門前仲町・葛西(18.7%)
8位:春日・白山(16.6%)
9位:四谷・麹町(16.4%)
10位:青山・原宿(16.3%)
11位:月島・勝どき(16.3%)
12位:渋谷・恵比寿(13.9%)
13位:東中野 - 西荻窪(12.3%)
14位:中目黒・自由が丘(12.0%)
15位:広尾・麻布(11.0%)
16位:池尻大橋・二子玉川(10.0%)
17位:白金・高輪(9.9%)
18位:代々木(9.1%)
19位:赤坂・六本木(8.8%)
20位:曙橋・若松河田(8.7%)
21位:飯田橋・神楽坂(3.5%)
ファミリータイプ
ファミリータイプでは1位「三田・芝公園」で脅威の50%超えとなりました。2位「新宿」、3位「月島・勝どき」、4位「広尾・麻布」、5位「青山・原宿」と、30%を超える賃料上昇が続いているエリアが上位にランクインしています。
<東京23区・ファミリータイプ> ()内は上昇率
1位:三田・芝公園 (53.7%)
2位:新宿(45.3%)
3位:月島・勝どき(38.5%)
4位:広尾・麻布(38.2%)
5位:青山・原宿(30.8%)
6位:飯田橋・神楽坂(26.4%)
7位:門前仲町・葛西(21.3%)
8位:東中野・西荻窪:(20.0%)
9位:白金・高輪(19.2%)
10位:池尻大橋・二子玉川(16.5%)
11位:代々木(15.5%)
12位:曙橋・若松河田(13.3%)
13位:春日・白山(12.0%)
14位:赤坂・六本木(5.1%)
15位:中目黒・自由が丘(2.9%)
※直近のデータがない四谷・麹町、日本橋・人形町、渋谷・恵比寿、銀座・新富町、神保町・秋葉原、池袋の6エリアは割愛
タイプ別
最後に、以下が東京23区各エリアの直近値を改めて切り出したグラフです。
全国版でも見られた傾向ですが、やはり「ファミリー>コンパクト>シングル」の順で賃料上昇率が高くなっています。特に「三田・芝公園」「新宿」エリアはファミリーの賃料上昇が著しく、シングルやコンパクトは他のエリアと同様に堅実的な伸びをみせています。
「青山・原宿」エリアはシングルタイプの賃料は7.3%低下しているものの、ファミリータイプでは30.8%上昇となりました。
4.まとめ
いかがでしたか。
全国レベルで見ると、引き続き面積帯の広い物件の賃料上昇が全体を牽引する状況が継続していました。また、東京23区のエリアごとの分析では、駅や地域によって単身者に強いエリア、ファミリーに強いエリアなど、賃貸ニーズが棲み分けられている傾向が見て取れます。
ただし、このマンション賃料インデックスで集計されている2009年以降、全国的にマンション賃料が上昇傾向であることに変わりはありません。世界的なインフレ基調が続く中、総じて緩やかな賃料上昇傾向が続く可能性が高いでしょう。区分マンション投資のエリア・物件選定や投資判断に、ぜひ本レポートをお役立てください。
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マンション賃料インデックス各指標の定義等について
<インデックス算出条件>
・建物構造:RC(鉄筋コンクリート造)、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート造)
・駅から徒歩15分以内
・住戸面積:18㎡以上100㎡未満
<物件タイプ>
・シングルタイプ:18㎡以上30㎡未満
・コンパクトタイプ:30㎡以上60㎡未満
・ファミリータイプ:60㎡以上100㎡未満
・総合:18㎡以上100㎡未満
<エリアと駅名>
四谷・麹町:麹町・半蔵門・市ヶ谷・四谷
日本橋・人形町:小伝馬町・茅場町・人形町・日本橋・馬喰横山・浜町・新日本橋・馬喰町・三越 前・水天宮前
月島・勝どき:月島・勝どき
赤坂・六本木:神谷町・六本木・赤坂・乃木坂・六本木一丁目
広尾・麻布:広尾・麻布十番
三田・芝公園:大門・三田・御成門・芝公園・浜松町・田町・赤羽橋
白金・高輪:泉岳寺・高輪台・白金台・白金高輪
新宿:新宿・新宿御苑前・西新宿・新宿三丁目・西武新宿・東新宿・代々木
曙橋・若松河田:四谷三丁目・曙橋・若松河田・牛込柳町
飯田橋神楽坂:江戸川橋・神楽坂・飯田橋・牛込神楽坂
青山・原宿:原宿・明治神宮前・青山一丁目・外苑前・表参道
渋谷・恵比寿:恵比寿・渋谷・神泉・代官山
代々木:代々木公園・代々木上原・初台・幡ヶ谷・参宮橋・代々木八幡
春日・白山:後楽園・千石・白山・春日
中目黒-自由が丘:中目黒・祐天寺・学芸大学・都立大学・自由が丘
池尻大橋-二子玉川:池尻大橋・三軒茶屋・駒沢大学・桜新町・用賀・二子玉川
東中野-西荻窪:東中野・中野・高円寺・阿佐ヶ谷・荻窪・西荻窪
銀座・新富町:銀座・京橋・八丁堀・築地・東銀座・銀座一丁目・新富町・宝町・築地市場
神保町・秋葉原:神田・秋葉原・淡路町・新御茶ノ水・岩本町・小川町・神保町・九段下
門前仲町-葛西:門前仲町・木場・東陽町・南砂町・西葛西・葛西
池袋:池袋・東池袋・大塚
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