将来の資産形成や老後の備えとして注目を集める不動産投資。しかし、初心者の方の中には「何から始めればいいかわからない」「失敗が怖い」と不安を感じる人も少なくありません。
不動産投資は、単に物件を買って家賃をもらうだけのビジネスではありません。成功の鍵は、表面的な数字に惑わされず、自分の目的を明確にし、プロの視点で物件を見極めることにあります。
本記事では、初心者がゼロから不動産投資を始め、成功させるための道のりを詳しく解説します。
投資の目的とゴールを明確にする
不動産投資を始めるにあたって、最初にすべきことは物件探しではありません。
まずは、なぜ投資をするのかという目的設定が最も重要です。ここがブレていると、自分に合わない物件を選んでしまい、後悔することになります。
収益をいつ得るのかを決める
不動産投資の利益(ゲイン)には主に2種類あります。
自分がどちらを重視するのか、あるいはどのバランスを目指すのかを最初に整理しましょう。
インカムゲイン(運用益)
毎月の家賃収入のことです。
アパート一棟投資などは、毎月の手残り(キャッシュフロー)が出やすい傾向にあります。毎月の生活費を補填したい、年金代わりの定期収入が欲しいという方に適しています。
キャピタルゲイン(売却益)
物件を売却した際に得られる利益です。
都心の区分マンションなどは、月々の収支はトントン、あるいは若干のマイナスになることもありますが、資産価値が落ちにくいため、将来売却した際にまとまった利益を得やすいのが特徴です。
10年後に子供の教育資金を作りたい、資産の組み換えを行いたいといった目的に適しています。
自分に合ったリスクと汗のバランスを知る
私はよく、投資判断の基準としてリスクと汗という言葉を使います。
イニシャルコストのリスク
最初にどれくらいの自己資金(キャッシュ)を投じることができるかです。
アパート投資などは物件価格の1割から2割程度の頭金が必要になることが多く、初期費用がかかります。一方、ワンルームマンションであれば、少額の自己資金(10万円程度など)で始められるケースもあります。
他の投資も行いたい場合、どこまで不動産に資金を拘束されるかを考える必要があります。
運営の手間
不動産賃貸業は事業です。
アパート経営では、草むしりや共用部の清掃、入居者対応など、大家として汗をかかなければならない場面が多くなります。
これを自分でやるのか、それとも管理会社に委託して手間を省くのか。
副業として取り組む会社員の方にとっては、本業との兼ね合いでどれだけ手間をかけられるかも重要な判断基準です。
不動産投資の仕組みとメリットを正しく理解する

なぜ株式や投資信託ではなく、不動産投資なのか。その最大の理由は、他人の資本を使える点とインフレへの強さにあります。
他人資本(融資)でレバレッジを効かせる
不動産投資の最大の特徴は、金融機関からお金を借りて投資ができることです。
例えば、手元に10万円しかなくても、融資を活用することで2,000万円、3,000万円といった資産を運用できます。これをレバレッジ(てこの原理)と呼びます。
コツコツ積み立てる投資も素晴らしいですが、融資を使って時間をショートカットし、大きな資産規模を動かせるのは不動産投資ならではの魅力です。
インフレヘッジとしての価値
インフレ(物価上昇)が起きると、現金の価値は相対的に下がります。しかし、借金(ローン)の実質的な価値も同様に目減りします。
インフレ時において、不動産という現物資産を保有しつつ、借金の価値が下がっていく状況を作ることは、非常に合理的な資産防衛策となります。
利回りとキャッシュフローの罠を見抜く
いざ物件選びとなると、多くの初心者が表面的な数字の罠に陥ります。
プロは数字をどのように読み解いているのでしょうか。
利回りが高いイコール良い物件とは限らない
利回りは年間家賃÷物件価格で計算されます。つまり、分母である物件価格が安ければ安いほど、利回りは高く見えます。
なぜ安いのかを疑う視点が必要です。
立地が悪い、建物が古く修繕費がかさむ、再建築ができないなど、価格が安いには必ず理由があります。
高利回り物件は、空室リスクや流動性リスク(売りたい時に売れないリスク)が高い可能性があることを理解しておきましょう。
月々の収支よりもバランスシートを見る
月々の収支(キャッシュフロー)がプラスであることは安心材料ですが、それだけにこだわると失敗します。
例えば、月々の収支がマイナス1万円だったとしても、その裏でローンの元本が毎月10万円減っているのであれば、純資産(バランスシート)は毎月9万円ずつ増えていることになります。
都心の好立地物件などは、物件価格が高いため利回りは低くなりがちですが、資産価値が下がりにくく(あるいは上がり)、売却時に大きな利益(キャピタルゲイン)を生むケースが多くあります。
目先の小銭(キャッシュフロー)ではなく、売却時を含めたトータルの資産推移(純資産の積み上がり)を見ることが、失敗しない投資家の視点です。
適正な家賃設定と市場調査
物件の収益性を判断するためには、その家賃が本当に適正かどうかを見極める必要があります。
ライバル物件を徹底的に調査する
適正家賃を知るための基本は、近隣のライバル物件の調査です。
不動産投資は競争です。隣の物件よりも魅力的な条件であれば、入居者は決まります。
ポータルサイトを見て、近隣の競合物件がいくらで募集しているのか、設備はどうなっているのかを確認しましょう。
これを私は千本ノックと呼んでいますが、数多くの事例を見ることで相場観が養われます。
インフレキャッチアップできる物件か
インフレによって物価や給与が上がっていく中で、家賃もそれに合わせて上げていける物件かどうかが重要です。
築年数が古くても、内装がリノベーションされていたり、独立洗面台などの人気設備が導入されていたりする物件は、家賃を維持・上昇させやすい傾向にあります。
逆に、設備が古いままだと家賃を下げざるを得なくなります。
融資の審査基準と事業性

物件を購入するためには、金融機関の融資審査を通過する必要があります。銀行は何を見て融資を決めているのでしょうか。
個人の属性と物件の評価
審査では、個人の属性(年収や勤務先)と、物件の評価の2つが見られます。
個人の属性については、年収の倍率(一般的に10倍から12倍程度)などが目安となります。
これは、万が一空室が出た場合でも、給与収入で返済をカバーできるかを見るためです。
銀行が見ている事業性とは
銀行が物件評価で最も重視するのは、事業性です。
ここでの事業性とは、いざという時にいくらで売れるか(換金性・流動性)を指します。
銀行は、万が一返済が滞った場合に、物件を売却して融資額を回収できるかを考えます。
つまり、銀行から高い評価が出て融資がつきやすい物件というのは、市場での資産価値が認められた、売りやすい物件であるという裏返しでもあります。
プロ視点での物件内覧と設備チェック
数字上のシミュレーションで合格ラインが出た物件でも、実際に現地を見なければ本当の価値はわかりません。
特に中古物件の場合、設備の状態は入居率や将来の修繕費に直結します。プロは内覧で以下のポイントを重視しています。
空間の広がりと天井高
部屋に入った時の第一印象を決めるのは広さですが、床面積だけでなく高さも重要です。
天井高は2.45m以上あると圧迫感が少なく、グレードの高いマンションとして評価されやすくなります。
図面だけでは分からない開放感を確認するため、内覧時にはレーザーポインターなどで実測することをおすすめします。
サッシと断熱性能
窓(サッシ)は居住快適性を左右する重要な要素です。
ペアガラス(複層ガラス)になっているかを確認しましょう。ガラスの中に真空層やガスが入っているタイプは、結露を防ぎ、冷暖房効率を高めます。
これは入居者の満足度を高めるだけでなく、結露によるカビや腐食を防ぎ、建物の寿命を延ばすことにもつながります。
水回りの仕様とトレンド
築年数が経過していても、水回りの仕様が良い物件は賃貸付けに非常に有利です。
例えば、お風呂のサイズ。ファミリータイプであれば1317や1418といったゆとりのあるサイズが好まれます。
また、最近のトレンドとして、洗面所は独立洗面台であること、そしてその幅が十分にあるかもチェックポイントです。
キッチンについては、食洗機が後付けできる配管になっているか、ディスポーザーがついているか(ディスポーザーは後付けが難しいため希少価値が高い)なども確認すると良いでしょう。
出口戦略(売却)を描く
不動産投資のゴールは、物件を買うことではなく、最終的に利益を確定させることです。
いつ、いくらで売るのかという出口戦略(エグジット)を考えずに購入するのは、ゴールのないマラソンを走るようなものです。
流動性と換金性を意識する
銀行が融資審査で物件の事業性を重視するという話をしましたが、これは言い換えれば換金性の高さです。
売りたいと思った時にすぐに買い手がつく物件かどうかが重要です。
都心の好立地物件や、管理状態の良い物件は流動性が高く、希望する時期に現金化しやすいという特徴があります。
売却タイミングとバランスシート
物件価格は市場環境によって変動しますが、ローン残債は毎月の返済によって確実に減っていきます。
購入時よりも物件価格が下がっていたとしても、それ以上にローン残債が減っていれば、売却時に手元に現金が残ります。
毎月のキャッシュフローだけでなく、売却時の手残りまで含めたトータルの純資産(バランスシート)がプラスになるタイミングを見極めることが成功の鉄則です。
応用編:法人化による効率的な運用
不動産投資の規模が拡大してきたら、あるいは最初から規模の拡大を目指すのであれば、資産管理法人の設立も検討の価値があります。
税率のメリットを活かす
個人の所得税は累進課税であり、所得が増えるほど税率が高くなります(住民税と合わせて最大55%)。
一方、法人の実効税率は一定の所得を超えると個人よりも低くなる傾向があります。
本業の給与所得が高い方や、不動産収入が増えてきた方は、法人化することで手残りを増やせる可能性があります。
経費計上の範囲と柔軟性
個人事業主よりも法人の方が、経費として認められる範囲が広くなる場合があります。
例えば、物件視察のための交通費や、事業に使用する社用車の維持費なども、事業性が明確であれば経費計上が可能です。
また、赤字を翌年以降に繰り越せる期間も個人より長いため、大規模修繕などで大きな経費が出た年度の赤字を、翌年以降の黒字と相殺(損益通算)して節税するといった戦略もとりやすくなります。
サブリーススキームでのスタート
最初から法人で物件を購入するのが難しい場合でも、個人で所有している物件を自分の法人にサブリース(転貸)する形から始める方法があります。
これにより、家賃収入の一部を法人に移し、法人の売上として計上することで、法人運営の実績を作りながら経費の最適化を図ることができます。
まとめ:正しい順序で資産形成を加速させる
不動産投資は、決して一か八かのギャンブルではありません。
目的を定め、リスクと管理の手間を理解し、物件を見る目を養い、出口戦略まで描く。このロードマップに沿って進めれば、再現性の高い資産形成が可能です。
しかし、市場動向や融資情勢は常に変化します。一人で全ての情報を収集し判断するのは容易ではありません。
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